アート

木版画の裏技:竹皮・砥石・当て紙の代用、ジェッソ・ボンド等の活用で広がる表現法、よみがえる過去の作品

・・・木版画歴50年、後期高齢者の仲間入りした今でも、木版画教室通いは20年を超えて続けています。二つの公募展も10年ほど連続して入選しています。

その間、これは代用できるとかこんなに手間とお金かけなくても出来るのにとか、いろいろ気づくことが多々あります。

そこで、自己流ながら木版画に興味をお持ちの方に少しでもお役に立てば、との思いをこのブログにまとめてみました。

写真:あまご(サツキマス) <木版画> 15×26cm

竹皮・砥石・当て紙の代用

竹皮の代用は洗濯ネット。

百円ショップで洗濯ネットをget。

‎・・・代用品は本物と同等の品質で、本物より安く手軽でなければ意味がありませんね。 竹皮の代用品は、百円ショップで売ってる洗濯ネットです。‎

写真:洗濯ネット、購入時。

 

‎先ず作業を始める前、洗濯ネットは百円ショップのもので十分です。 ‎

ファスナーを除き、‎‎四角に広げたネットか5面get‎‎できます。 竹皮5枚分ですね。 では、作業の写真をご参照ください。‎

写真:洗濯ネットの隅をカットし、広げた様子。

‎手順1. 本物の竹皮を包む手順と全く一緒です。‎

‎・・・本物の竹皮を包む練習にもなりますので、‎‎初心者の方にもおすすめ‎‎します。 広げた‎‎ネットの中央に‎‎竹皮をはがした‎‎バレンを置き‎‎ます。‎

写真:洗濯ネットを竹皮の状態に広げ、バレンを中央に置きます

‎手順2. ネットの上下を固定します。‎

‎・・・この作業は重要です。 ネットの真ん中にバレンを置きます。

包む作業の時に動かないように、‎‎上下をガムテープで止め固定します。 ‎

 

写真:バレンを真ん中に置き、ネットの上下をガムテープで止めて固定します。

 

‎手順3. 右側ネットを絞る‎

‎・・・‎‎竹皮を包む要領‎‎で、右下手前から‎‎できるだけ細かく内側に巻き込み‎‎ます。

次に右上からできるだけ細かく内側に巻き込みます。 竹皮を包む作業と同じです。‎

‎右側ネットを上下巻き込んだ後、‎‎右側に束‎‎が出来ます。 それを、‎‎右内側から外側へ回しながら絞ります‎‎。‎

‎写真:本物の竹の皮を包む方法とまったく同じ方法です。 右に巻いたネットも反発するので重しで押さえます。 ここでは身近に有った鋏を使いました。‎

 

‎手順4. 右ネットを絞った後、反転し左側に置きます。‎

‎・・・左ネットを右ネットと同じような方法で、左ネットの絞った束を作ります。

反発し戻る作用を防ぐため、近くに有ったガムテープを‎‎重しに使い絞った束を‎‎押さえます。‎

 

写真:最初に絞った右の絞りは、写真では左側に移っています。

 

‎手順5. 左右の絞った束をバレンの中央で結びます。‎

‎・・・左右の絞った束をバレンの中央で結び、完了です。 真ん中の結びを2重にすると高くなり、より持ちやすくなります。‎

写真:出来上がりました。 竹皮を包む方法と全く同じ方法です。‎ただし長期間使用するとある程度伸びるので、締めなおし使用します。

練習に最適: 竹皮を包む方法と全く同じ方法です。

①特にいきなりの初心者には、事前練習に最適です。‎和紙で使用済み竹皮と同じ幅にカットしての練習方法もオススメです。

②長期間使用するとある程度伸びますので、ゆるみを感じたら結びなおします。

応急処置に最適:竹皮が裂け始めた頃、有効です。

・・・竹皮が乾燥などで亀裂が入り裂け目が広がりそうになった場合でも、応急処置として、十分機能します

‎具体的には、使用中そのままのバレンの状態で‎‎構いません。 洗濯ネットでカバーする形で十分対応できます。

よって当然想像を超えてバレンが長持ちします。‎

但し、洗濯ネットは数回使用していると伸びますので締めなおして使用してください。

竹皮が無い場合、ネットだけでも十分機能します。

竹皮専門店に竹皮を買いに行く。

‎・・・版画を習い始めの頃、竹皮が無くなり、‎‎京都の問屋‎‎さんまで新幹線に乗って買いに行ったことがありました。

丁度‎‎祇園祭の最中‎‎で、竹皮の問屋さんは祭の集会所になっていました。‎

大勢のご近所の方々でにぎわっていましたが、店主に事情を話すと・・・、

「今日は営業はやってないが、倉庫の段ボール箱の中から好きなものを選んでいいよ」とのこと。

倉庫一杯に積まれた段ボールの中から、4~5個の段ボールを開けてよさそうな竹皮を見つける作業は、宝物を探すような気がしてワクワクものでした。

‎一方で、倉庫の中の熱気と埃は花粉症持ちの私にはハードでした。 今では竹皮に関する一つの思い出です。

習い始めの頃で、版画一筋その面白さにのめりこみ始めた時期でした。‎

竹皮専門店、田中冶商店

‎所在:京都市中央区高倉錦上ル 田中治平。 TEL075-221-1297。‎

 

‎砥石の代用1. 耐水ペーパーかまぼこ板。‎

・・・砥石には、荒砥石(オイルストーン=セラミック)・中砥石(普段はこれだけで結構です)・仕上げ砥石(自然石があればベター)等あります。

‎注意点は、30分以上は‎‎水に浸けてから使用‎‎する。 そして、少量の水をたらし作業を開始、刃を砥ぐ時出てくる‎‎とぎ汁は流さない‎‎でそのまま砥ぐ事です。‎

 

写真:左から、まるヤスリ・よく使う彫刻刀3本・耐水ペーパー・DIYの砥石 。

‎砥石の代用、1. 耐水ペーパーかまぼこ板。‎

写真:耐水ペーパーを貼ったかまぼこ板。

 

・・・耐水ぺーーパーをカットしてかまぼこ板に巻き付け両面テープで耐水ペーパーの両端をしっかりかまぼこ板に固定します。

‎中砥石の代用‎‎が、耐水ペーパー320番手くらいです。 、‎‎仕上げ砥石の代用‎‎は、より細かい番手であればOKです。 仕上げ砥石の代用一つで良いくらいです。‎

<耐水ペーパーかまぼこ板の特徴>彫りの作業をしている途中で、彫刻刀を砥ぎたいと思ったとき、直ぐに砥ぎの作業ができて手軽で、便利で、効果的です。

‎砥石の代用、2. DIYの簡易砥石セット。‎

‎・・・砥石の代用、2. DIYの簡易砥石セット=上記写真の右端DIY砥石、ご参照。‎

‎写真:下方、よく使う彫刻刀3本(DIYの砥石を使っています)。 ‎‎中ほど、購入時3本。 上方は見当。 右側はカッター・工作ナイフ。‎

<上記写真は現在使用中の彫刻刀です、ご参考ください>

  • 下方、よく使う彫刻刀3本・・・砥ぎながら使い、10年ほど前に購入した時から5㎝程短くなっていました。
  • 中ほど、購入時3本・・・購入当初とほとんど長さは変わりません。
  • 上方は見当専用の彫刻刀・・・おおきな作品の枠取りに使っています。
  • 右側はカッター・・・見当を彫るのは、実際はカッターの代用で十分です。
  • 工作ナイフ・・・細かい部分は切り出し刀より工作ナイフを代用しています。

 

当て紙の代用はパチンコ屋さんのチラシ。

‎・・・当て紙:摺る際、バレンと摺り紙の間に当てます。 バレン摺の作業がスムーズになり、作品の裏も汚れません。‎

パチンコ屋さんのチラシ。

‎・・・当て紙の代用品は‎‎パチンコ屋さんのチラシ‎‎です。 効用の説明通りの機能があり、しかも無料の代用品はそんなに見つかりません。‎

‎写真:左から、バレンを当てる表は油膜で滑りやすく快適です。 裏の白い部分は余分な絵具を吸い取ってくれます。‎

 

チラシの使用ポイント:白い面が作品側です。

‎・・・白い面が作品側で、余分な塗料は吸い取ってくれます。 宣伝側は油膜で、バレンの快適な滑りで作業がしやすいです。

‎普段から新聞のチラシをストック‎‎しておきましょう。あなたの素敵な作品作りをサポートします。‎

ジェッソ・ボンド等の活用で広がる表現法

‎・・・‎‎綿棒・金串・ジェッソ・水性ニス・アクリル・ボンド等の活用で広がる表現法を記事にしました。 ‎

写真:左から、綿棒・金串・ジェッソ・水性ニス・アクリル・ボンド。

ジェッソについて(2022年5月)。

リキテックスのジェッソ詰め替え用が発売されていました。

  • 従来使用していた、小さなケース(上記写真参照)を捨てずに保管しましょう。
  • からになった小さなケースに詰め替え用のジェッソを移し替えた後、従来通り使用します。
  • 詰め替え用ジェッソはキャップをしっかり閉め、さらに乾燥を避けるためビニール袋(ジップロックなど)に入れ、保管しましょう。
写真:ジップロックにくるみ、保管中の詰め替え用ジェッソ。

 

細かい彫りが予想される時

‎・・・最初から細かい彫りが予想される版木に対して、彫る前にやっておくとかなり効果が期待できる作業があります。 ベニヤの表面に粘りを感じます。

‎各人好みによりますが、‎‎水性ニス・ジェッソ・ボンドそれぞれを薄めて版木面に塗ります‎‎。 はじめは小さな版木で、濃さを調節するなど、試しながらやるとよいでしょう。‎

‎気を付けることは‎‎各々単独で使用‎‎すること、最初は濃すぎないようにできるだ薄く均等に塗ること。 濃く過ぎずむらのないように自分に合った、目途を見つけましょう。‎

私は、水性ニスを薄く延ばして使います。 ピンポイントで水をはじきたいときは、彫った後からその版木部分にアクリルを塗るとかなり有効です。‎

葉の裏側の表現法

‎・・・植物の‎‎葉の裏側の表現法にはジェッソを活用するのが最適‎‎です。 表の葉と裏の葉を同時に塗り分けられる表現ができるなんてすごいことです。‎

‎たとえ別々に版木を彫って別々な色を付けて、寸分ずれることなく摺ったとしても、ジェッソを使用する効果にはかないません。 葉の裏にはお勧めです。‎

紫陽花の葉の裏側の版木にジェッソを塗っています。

・・・紫陽花の葉の裏の版木面にジェッソを塗ることで、表現力のUPが可能です。

写真:葉の裏、花弁の中心部の版木にもジェッソを使っています。

 

作品上不要と判断した葉の削除部分とつぼみの部分のベースです。

写真:左の×→印の葉はバランス上、後から削り取りました。つぼみの部分のベースです。

 

花弁の版木部分にもジェッソを塗っています。次の写真をご参照ください。

 

写真:花弁の版木部分にジェッソを塗り一回摺った状態です。

  • 左半分は、ジェッソを塗ってそのまま、1回摺った状態です。
  • 右半分は、綿棒で余分な絵具を拭いた後、一回摺ったケースです

‎摺る前に余分な絵具を拭き取り、数回繰り返すことが、花びらのグラデーションの表現法です。

根気が入りますが、摺るたびに少しずつ良くなってきます。

困難で苦しい作業のなかにも楽しみが存在します。これは、苦る楽しい状態となずけています(笑)。‎

 

一枚の葉でもジェッソを活用することで表現力がUPします。

写真:葉脈の間にジェッソを塗って、一枚の葉の中で凹凸を表現できます。

 

鶏の目の周り・胸の部分の表現法

・・・鶏の目の周り・胸毛とモモ肉もジェッソと金ブラシを活用し、表現しましょう。

鶏の目の周り・胸の部分の表現

・・・目の部分は通常通り、むね部分は点在するように濃く塗り、水彩絵の具をよりはじくようにし、凹凸面のような立体感を表現します。

<ご参考>ピンポイントでより水をはじきたい部分がある時は、アクリル絵の具を使用すると、かなり効果的です(アクリル絵の具は乾きが早く水の反発も比較的強い)。

もも肉の付近の表現法

‎・・・胸から足にかけての毛の表現は、硬い金ブラシでベニヤをひっかく表現法を用いています。

ベニヤをひっかく金ブラシは、硬い金串‎‎を使います。‎軟らかい金ブラシはベニヤ版の彫り残しを除去するのに使います。

写真:(上)硬い金ブラシ、(下)軟らかい金ブラシ。

 

年賀状、寅の耳・鼻先の表現。

‎2022年の年賀状のデザインは虎です。 そこで虎の耳・鼻先の版木部分にジェッソを塗りました。 薄い桃色で表現しています。‎

写真右側:虎の耳・鼻先部分をうす桃で表現しました。

 

空の表現(浮世絵風)

‎・・・浮世絵の上部、空の場合も版木上部にジェッソを塗り、あおの水彩絵の具が軽く表現されます。

最上部はバレンを斜めに傾け、版木のエッジを利用し摺ります。‎

写真:花びらの縁の部分の版木にもジェッソをグラデーションを付けて塗ってあります。

 

魚のお腹・ひれ・尻尾の表現

‎写真:魚のお腹とひれ尻尾の表現は、それぞれに枠を彫ると質感が失われる恐れがあります。

それぞれの彫りの部分にジェッソを塗った後、バレンで彫りのエッジを数回にわたり押し付けるように摺りました。‎

よみがえる過去の作品

‎例1. 縦の絵か? 横の絵か? 再検討する。‎

‎・・・横の絵で発表後、数年たちましたが自分でもすっきりしませんでした。 何が原因なのだろう? こんな時はカルチャーセンターの強みで、皆で検討しました。‎

‎次の作品は、実物の塀をもとに制作しているので、どうしても横の絵になってしまっています。 抽象画と割り切って、縦にしたらどうかとのアドバイスあり。‎

写真:過去発表時の横の絵です。

 

手順1.横の絵を縦にして検討する。

‎・・・縦にして検討してみる。 まず黒を上部に置くことを前提にします。 上部の黒とバランスをとるため真ん中も黒で下までおろしてみます。‎

 

写真:真ん中の正方形の黒の上部を赤に変える前です。

手順2.正方形の黒赤は、入れ替える。

‎・・・さらに元の中央の正方形の黒赤を入れ替えて、赤い長方形真ん中に置きます。 赤い色は明るすぎるとマッチしない、暗すぎると赤の効果がない。‎

写真:‎最上部に位置する黒の横帯の高さの幅と赤の長方形の横の高さをほぼ同じにする。 赤い折り紙を置いて赤色の明暗を調節しました。‎

‎例2. しぶきの配置は適正か見直す。‎

鮭の頭の右にあるしぶきの配置は適正か?

‎手順1. 右の「しぶき」で行く手を阻まれており、躍動感がおさえられている感がある。 よって、「しぶき」を左下へ持ってきたら?‎

写真:当初、右前にしぶきが!

 

‎手順2. 「しぶき」を‎‎左下に移動‎‎させたら、右手を塞ぐことなく、右上に大きく広がる感じを表現できました。‎

写真「しぶき」を左下方に移動後:右上方に空間が広がり、鮭の躍動感が伝わってきます。

 

‎例3. 濃いか薄いか‎。

空の青さは十分表現されているか?

 

写真:晩秋の妻籠の風景。

 

写真:晩秋の妻籠の青く澄んだ空が十分感じられます(和紙も白に摺りました)。

 

例4.一部分を抜粋する。

・・・特に過去彫れたはずの文字・絵柄など、後日再現で来なかったときになど。

今回、作品に相応しい文字を選ぶ。

写真:旧暑中見舞い作品の「夏」を再使用。

 

2.新作品に相応しい文字と位置合わせるため、旧作品にかぎ見当を貼り付ける。

写真(中央下):旧作品に「カギ見当」を貼り付ける。

 

旧作品の版木を活用し、その一部を新作品に取り入れ完成。

写真:2022年暑中見舞い、完成作品。

 

「木版画の裏技」、「よみがえる過去の作品」のまとめ

・・・代用できる道具とか、こんなに手間とお金かけなくても出来るんだとか、何かヒントになったり、あなたのお役に立てた記事がありましたでしょうか。

現在、二つの公募展も10年ほど連続して入選しています。

しかし入選20作品のうち半数は何らかの賞をもらえずじまいで、破棄するには忍びない状態でした。

そこで、従来出展したけれど観客の反応が薄かったり入賞しなかった過去の作品の原因を探りたい、

自分なりに何とかよみがえらせたい気持ちのままでした。

そこで、何が原因だろうか?何かあるはずと思って、改善策を思いついた順に過去の作品を版画教室の仲間にみせ、いろいろ意見を交わしました。

同じような年齢の仲間たちと試行錯誤しているうちに、自分一人では気づかなかった新たな発想が出てきます。

この年になって、過去の作品の中にまだ新しい発見があり、木版画の面白さを体験させてもらっています。

今後とも木版画を愛するあなたにとって、この記事がいつかどこかで作品作りの参考になれば幸いです。

最後までご覧いただき有り難うございました。