・・・夜空に輝く無数の星を見飽きることが無かった幼少期。
宇宙図鑑をめくりながら目を奪われたのは、見たこともない星雲の数々。
強く白い光と原色が激しく回転し渦巻きとなって混ざり合う。それぞれが輝き変化する無数の星雲。
はるか遠くで展開される星雲の姿を何とか表現したいと思い、今回の作品「時空」ー3に再挑戦しました。
木版画「時空」ー3、制作工程
・・・木版画で「時空」ー3の制作工程を説明します。まず作品のヒント、次にデザインの過程から説明します。
「時空」ー3、ヒント
・・・幼少期、宇宙図鑑で見た星雲。その後、版画を手掛けるようになってから美術館・博物館で見た曜変天目茶碗。
時を忘れて見入ってしまう曜変天目茶碗と、空間に浮かぶ星雲の数々に「時空」作成のヒントを得ました。
デザインの過程
基本
- 曜変天目茶碗の右半分を基本に、外輪は明るい色調にしました。
- 作品の中間を横切る形で黒い三角でくさび形にし、画面全体に緊張感を持たせました。
創意工夫
- 外輪のバックは黒に近い暗い色調で、築地塀柄を採用し柄は極力目立たないようにしました。
- 作品左中央の白い楕円は渦巻き模様にし、作品に動きを与えるようにしました。
反転した、同じサイズの型紙を作る
- 彫る前に実物大の型紙を作成し、デザインと実際の違いを確かめました。
- 外輪と背景の割合、画面を横切る三角形の位置と向きを確定しました。
曜変天目茶碗
中国の南宋時代に造られ、日本に三点しか現存しておらず、いずれも国宝です。
再現不可能と言われながらもたくさんの陶芸家が曜変天目茶碗の再現に挑戦しています(ネット情報)。
彫り
型紙に沿って彫る
色のついてない版木では、彫った部分の版木の状態が分かりにくいので、
敢えて摺った後の色付け跡の残る版木を掲載しました。
④円形内重ね彫り
- 円形内の複雑に重なり合う同系統の釉薬の濃淡を識別するため、別の版木を作成します。
- 釉薬の濃淡の変化具合を丹念に仕分け、デフォルメしていくことは、木版画のおもしろさの一つです。
背景の築地塀
- 作品の背景には、私の作品の特徴である築地塀柄を暗いトーンで配置します。
- 築地塀柄は目立たないように、暗いトーン(黒とベインズグレーのみ)で彩色します。
<背景に使う築地塀の版木について>
以前に使用した作品の版木をカットし、保管分したものを使用しています。
汎用性の高い部分の版木は、後の作品制作に有用であり廃棄せずストックしています。
築地塀上部の長方形
③版の小さい部分は摺りの時、動かないように固定(ガムテープ等)します。
摺り
・・・作品に深みを表現するため重要な役割をするマチエール、この作品のマチエールは粒々です。
マチエールづくり
予め四角にカットした滑り止めストッパーの裏側の粒々を、マットに貼り付けて使用します。
全体に均等に隙間なく、粒々のマチエールを作ります。
<ポイント>
- 四角のマットを移動・回転させながら摺ると作業は効果的にです。
- マットの移動と回転で、当初のマチエール作りの労力がかなり改善されました。
マチエール完成
今回は、黒い三角形の横線を占める版木の部分を除き,作品いっぱいにマチエールをを施しました。
築地塀柄を摺る
<①瓦・②瓦外郭部分共、円形部分を避ける>
<①瓦部分>
<②瓦外郭>
<瓦外郭>
④円形の摺・③築地塀上部の長方形
⑤円形内の重ね彫りと輪郭
⑤円形の重ね摺・黒の三角形
<摺り・版木のポイント>
- 重ね摺り:本作品で円形の重ね刷りは、マチエールと同様重要な作業です。水彩絵の具は薄く溶いて・摺りを重ねます。
- 版木の木目は横向きを選ぶ:円内の筋が水平に流れ画面に変化をもたらし、バックの築地塀柄とマッチします。
「時空」ー3、完成作品へ
完成前、チエック
画面上部に当初予定の、白のポイント場所がはっきりしない。
「時空」ー3、の完成
当初予定の画面上部(画面上部左と下部右の対角線上)に白の円形ポイントをコラージュしました。
過去の作品、時空ー1・時空-2
・・・今回「時空」-3を制作する前(2012年)に、時空―1・時空ー2の二点の制作に挑戦しました。
時空ー1
時空ー2
その当時は、曜変天目茶碗の知識及び築地塀技法が確立していない段階でした。
展示作品を眺め「漠然と空間を感じる程度に留まっている」との思いで、もやもや感がぬぐえませんでした。
今回の作品を「時空」-3と題したのは、時空―1・時空ー2の二点を出展してから10年経った今、
やっと「時空」作品に納得できたというお思いを込めました。
*作品は、2023年11月21日~26日「第28回火曜会木版画展」に出展予定です。ご高覧頂ければ幸いです。
木版画「時空」ー3、制作工程のまとめ
・・・木版画暦20年超の経験の中で同じ題材で、10年前の題目「時空」の思いに再挑戦し、その制作過程を掲載しました。
幼少期に宇宙図鑑で見た星雲。その後、版画を手掛けるようになってから美術館・博物館で見た曜変天目茶碗。
信長塀制作で身に着けた築地塀技法。この三点のコラボで実現しました。
今年夏に迎えた喜寿!作品制作の切っ掛けをくださった版画の神様のご褒美と有難く受け止めています。
今後の「時空」シリーズを応援いただければ幸いです。最後までご覧いただき有り難うございました。